• « 2017·09
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • 8
  • 9
  • 10
  • 11
  • 12
  • 13
  • 14
  • 15
  • 16
  • 17
  • 18
  • 19
  • 20
  • 21
  • 22
  • 23
  • 24
  • 25
  • 26
  • 27
  • 28
  • 29
  • 30
  •  »
--’--.--・--

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

Categorieスポンサー広告  - - TOP

2014’09.21・Sun

【小説】ここにいること(後編)

後編になります。
お待たせしました。

 「行ってみましょう」

 私は焚き火を砂で消しながら声をかける。すいなは神妙な面持ちで大きく一つ頷くと、鎌を手に取った。

 さっき来た広場の入り口に何もいないのを確認してから、剣を引き抜いて建物へ駆け出す。建物前の柱の影などの安全を確かめてから、入り口の扉へと向かった。
 三メートルほどある巨大な木の扉は、進入を拒むように重々しい雰囲気を纏っている。しかし、それに怖気づくわけにはいかない。意を決して、取り付けられた鉄製の持ち手をつかむと押し開ける。

 建物の中は二十メートル四方ほどの、天井まで吹きぬけた空間が広がっていた。天井は半分ほど崩れ落ちて、光が差し込んでいる。
 床は全体に石畳が敷き詰められていた。入り口から真っ直ぐ、少し高めの細い石が通路のように縁取って伸び、その脇に崩れた石柱が並んでいる。
 中央は他よりも正方形に少し高くなっており、そこにアーチが一つ、何とか形を保って残っていた。それを中心に十字に細い石が伸び、その突き当りの壁にはレリーフが彫られている―――この場所で何か儀式か集会のようなものが行われていたのかもしれない。

 壁際には巨大な蜘蛛の卵がかなりの数産み付けられている。樽や壺なども見られるが、蜘蛛の巣が張り巡らされて、卵との違いを見分けるのが難しいほどだった。
 ぐるっとその空間を見渡すが、特に何も動くものは見つけられなかった。張り詰めた空気だけが、その空間を満たしている。

 私は神経を研ぎ澄ませながら、一歩ずつ中に入っていく。すいなもそれに続いて、後ろを確認しながらついてくる。
 二人の身体が完全に建物の中に入り、扉がゆっくりと閉まる。しかし、それでも何か変わった様子は見られない――― 一体、さっきの音は何だったのだろうか。

 不思議に思いながらも、気を抜くことなく慎重に進んでいく。アーチのところまで来ると、周りを再び見回す。中心ということもあり、建物の中は全て見て取れた。
 奥に部屋はないらしく、扉のようなものは見られない。外へと繋がるのは入ってきた扉と、崩れ落ちた天井だけのようだった。

 「クラウスはここにはいないようですね」

 構えていた剣を下ろして、すいなの方を見る。すいなも鎌を下ろして、残念そうな顔で頷いた。それを慰めようと何か声をかけようとしたところで、再び音が響いた。

 ―――ドゴォォォン!

 錯覚ではない、建物が揺れている。パラパラと頭の上から天井の崩れた破片が落ちてくることが、それが事実であることを裏付けていた。

 ―――ドゴォォォン!ドゴォォォン!

 今度は音は止まらない。耳を塞ぎたくなるほどの轟音が続く。音は建物の外から聞こえるようだった。壁に反響して音の出所はよくわからないが、入り口側から見て建物の半分よりは奥側からなのは間違いない―――それだけ判断すると、嫌な予感がして叫ぶ。

 「下がってください!」

 私はすいなを突き飛ばすようにして後ろに飛び退くと、剣を構えなおした。すいなも体勢を整えてから、鎌を構えなおす。
 それとほぼ同時に、入り口から向かって左側奥の三メートルほどの高さの壁が外側から打ち破られ、巨大な魔物が中へと飛び込んできた。
 魔物は苦もなく着地すると、肩を突き出してアーチに向かって走り出す。途中の柱などを破壊しながら真っ直ぐ中央へとたどり着くと、すっと腕を大きく後ろに引きながら天を仰ぎ見るようにして、深く息を吸い込んだ。

 「グオオオァァァ!!!」

 けたたましい咆哮が響き渡る。震えた空気が、びりびりと肌も震わせる。咆哮と共に浴びせられる圧力に負けないように、ぐっと下半身に力を込める。

 魔物は巨大な木製の角のついた兜を身につけていた。角には三箇所鎖がつけられており、その先には人間の頭蓋骨がぶら下がっている。私たちのようにこの建物に踏み込んだ人間の成れの果てなのか、それともここで行われていた何かによるものなのかはわからないが、人間にとって脅威であることを知るには十分だった。

 兜は目と口は覆われておらず、殺意の宿った暗い瞳と、鋭く尖った牙がこちらに向けられている。覆われている部分は棘のように尖っており、攻撃的であることを誇示しているかのようだった。上半身と太ももあたりまで鈍色の鎧を見につけており、肩には棘、腰の部分には牙のような装飾もされていることから、推測は間違っていないのかもしれない。
 右腕の肘から先には鎖が巻きつけられ、その手には巨大な杖が握られている。これで魔術を使ってくるのだろう―――杖には最も注意しなくてはいけない。

 体長は三メートルはあるだろうか、ところどころ隙間から覗く青黒い肌の質感がトロールの皮膚であることを示している以外には、今日戦ってきたトロールたちとは全く別の生き物のようだった。

 ざっと一通り観察して、記憶の中の傭兵団からもらった情報に照らし合わせる。ターゲットのクラウスに間違いないことを確信すると、手に持った剣をぐっと握りなおし、気合を入れなおす。

 「来ますよ!すいなさんは左に!」

 クラウスが飛び込んできたときと同じように肩を突き出したのを見て、声をかける。こちらに一歩踏み込むのを見てから、私は右へと跳んだ。
 こういった巨大な魔物一体を相手にするときには、挟み撃ちすることが基本となる。魔物が片方に意識を向けているうちに、もう一人が隙を見て攻撃をする。それが一番安全で、戦いやすい。

 私たちは突進を避けながら走り出すと、お互いクラウスを挟んで向かい合う。クラウスは突進を止めると、二人を交互に見た。
 少し距離の近かったすいなを目標とすると、杖を大きく振りかぶった。すると、杖の先に球形の黒いもやが発生した。振り下ろして、それをすいなに向かって投げ飛ばす。

 すいなはすぐに左に走ってそれを避ける。黒いもやは地面に衝突すると砕け散り、そこを黒く染めた。傭兵団の情報によると、クラウスの魔術には肉体的なダメージ以外にも体力を減衰させる効果があるらしく、少しの接触でも戦況は大きく傾いてしまうため、触れるわけにはいかない。

 私はクラウスが振りかぶったのを見て距離をつめて、振り下ろしたことで無防備な状態の背中の、鎧で覆われていない部分を斬りつける。

 「グオォ!」

 短い苦痛の叫び声をあげる。いくら巨体とはいえ、鎧のないところを狙えばちゃんとダメージは与えられるようだ。
 すぐに飛び退いて距離を取ると、再びクラウスを挟んですいなの向かい側に位置を取る。この位置を守り続けることが、何よりも重要だった。

 斬りつけられたことに腹を立てたのだろう―――クラウスはすぐにこちらに向きを変えると、肩を突き出して突進してきた。それを見てから、左へ走ってそれを避けて距離を取る。お互い敵を挟み合うときは時計回りに逃げると決めてあるので、二人とも左へと同じように移動していく。

 避けられたクラウスはすぐに突進をやめると、先ほどと同じようにこちらに向かって杖を振って黒いもやの球体を飛ばす。私がそれを跳んで避けると、すいなが素早く後ろへ回り込んで鎌で斬りつける。
 クラウスは再び短い叫び声をあげた。しかし、クラウスが体の向きを変える頃には、すいなはしっかりと距離を取っている。

 「グオオオオ!」

 クラウスは繰り返される状況に怒りを露わにすると、大きく叫んだ。それから、地面を踏み鳴らすと先ほどより姿勢を低く肩を突き出して、すいなへ向かって突進を始めた。そのスピードは先ほどより明らかに速くなっていた。
 予想外のことではあったが、ちゃんと距離を取っていたすいなは何とかそれを跳んで避ける。クラウスは突進の勢いで止まることができず、そのまま壁へと突っ込んだ。壁が削れて、破片が飛び散る。
 ガラガラと崩れる壁の中からこちらに向き直ると、にやりと鋭い牙の生えた口を嬉しそうに歪ませた―――その意味を私はすぐに理解する。

 お互い挟みあって戦う、ということは広い場所があってできること。この場所のように建物の中のような限られた広さでは、どうしても挟めない場合がある―――それが今のように魔物が壁を背にした場合だった。左右に分かれれば挟めなくもないが、そうすると自分たちが避けられる方向が限られてしまうため、かなりの危険を伴う。
 つまりは、もう同じ手は通用しないということを、こちらに思い知らせるための笑いだった。魔術を使うだけあって、それなりの知恵はあるということだろう。

 「仕方ないですね―――挟み撃ちとはいかないまでもお互い邪魔にならない角度から仕掛けましょう」

 「わかりました!」

 お互い声を出すと、クラウスが同時に標的にできないように離れて位置を取った。クラウスはそれを見てゆっくりと距離を詰めてくる。ある程度まで距離を詰めると、今度は私に向かって、突進しながら肩を突き出してきた。予備動作がなかったため、回避への反応が遅れる。
 私は咄嗟の判断で真横ではなく右斜め後ろに跳躍すると、突進の速さと距離を確かめながら、いなすようにして、突き出された肩の棘のない部分の鎧を横から蹴り、その勢いを利用して何とか避けた。

 予想していた手ごたえがなかったクラウスはすぐに立ち止まると、こちらを振り返る。まだ体勢の立て直せていない私を見ると、始め中央で咆哮したのと同じように腕を引いて、天を仰ぎ見るような動作をする。
 すると、今度は足元から衝撃波が発生して、周りの地面を吹き飛ばした。衝撃波自体は狭い範囲だったが、地面にまだ手をついた状態の私には避ける術もなかった。何とか衝撃波の来る方向に腕を組ませて少しでも防ごうとするが、あまり意味はなく吹き飛ばされてそのまま地面を転がった―――着地した衝撃で体に痛みが走る。

 すいなが心配そうな表情をしているのが視界に入る。それに軽く笑って大丈夫と伝えて起き上がると、剣を構えなおす。それを見て安心したのか、すいなもクラウスへと向き直った。

 クラウスは自分の攻撃が当たったことに満足したのか、再び笑みを作る。それから、ゆっくりと右手の杖を上へと掲げ、それを円を描くように振り回しだした。いくつもの黒いもやの球体が生まれては、四方八方へ飛んでいく。狙っているというわけではないらしく、後ろの壁に当たって砕けたり、二人がいない方向に飛んでいっては地面に落ちたりしている。
 しかし、いくら狙っていないとはいってもかなりの数が飛んでくる。もちろん、偶然二人のところに飛んでくるものもあり、二人とも足を止めずに走って避けるしかない。魔術によるダメージもさることながら、体力が減衰するということも考えると少しも気は抜けない。

 「あっ!」

 不意に左の方で声が聞こえた。自分が避けるのに必死で気を回す余裕がなかったが、視線を向けた先ですいなが転んでいた。どうやら、クラウスが壊した柱の破片につまづいたようだった。
 それを見たクラウスは振り回した杖が後ろにいったタイミングで、それをすいなに向けて振り下ろした。狙いをつけて放った一際大きな黒い球体が、真っ直ぐにすいな目掛けて飛んでいく。

 私は全力ですいなへ向かって走り出す。幸い、無造作に放たれた黒い球体は私とすいなの直線状には飛んできていなかった。『間に合って!』―――それだけを祈りながら、ただ強く地面を蹴る。
 祈りが通じたのか、何とか球体とすいなの間に滑り込むと、腰を落として腕ごと捻り、右腕の下に左腕を捻り込む。それから、飛び退きながら左腕を前に、右腕を後ろに思いっきりなぎ払う。それにより、自分の前にだけ一瞬だが強力な逆風が生じる。それが球体をクラウスへとはじき返す。

 杖を振り下ろしてちょうど体を起こしていたクラウスの頭へと、球体が衝突する。苦しいのか、まだ霧散していない黒いもやを掴んではがすようにもがきだした。

 「大丈夫ですか?」

 そんなクラウスを横目で見ながら、まだ転んだままのすいなへ手を伸ばす。「うん」と頷きながらそれを掴んで起き上がると、痛そうに顔を歪めた。膝を見ると、軽くすりむけて血が流れている。

 「早く終わらせて、消毒しないとですね。頑丈な鎧もありますし、小さな攻撃を積み重ねてもいつ倒せるかわかりません――― 一撃、狙いましょう」

 「そうですね」

 すいなは了承してから、一度自分の血が出ている足を見て付け足した。

 「私、あいつ嫌いです!」

 戦闘をしている以上怪我などよくあることだが、すいなが怒りを前面に出してくるのは珍しかった。どうやらよっぽどクラウスの攻撃や動きが気に入らないらしい。

 「なおさら、早くしないとですね」

 頭からもやが無くなったクラウスがこちらへと意識を向ける。それを受けてお互い左右に分かれると、クラウスに対峙する。魔術を跳ね返されて慎重になったのか、クラウスもすぐには動こうとはせずに二人をにらみ返した。

 数秒の沈黙。時が止まったかのようにも思えたが、自分の息づかいがそうではないと否定する。

 私は一旦構えを解くと、クラウスに向かって右腕を伸ばした。クラウスの視線がそれを追ったのを見てから、ウインクをしながら人差し指を立てて、おいでおいで、と挑発する。
 クラウスはそれを見て、叫びながら大きく地面を踏み鳴らす。それから、深く腰を落として肩を突き出すと、こちらに向かって突進を始めた。渾身の力を込めているのだろう、今までとは比べ物にならない速さだった。

 私はそれを見てすぐに構えなおす。避けようと思えば避けられるだろう。しかし、それでは意味がない。私が挑発したのはもちろん私に攻撃させるためでもあるが、怒らせて最大限の力でこちらに向かわせることが一番の目的だった。

 他の考えは全て捨てて、ただ向かってくるクラウスにだけ神経を研ぎ澄ます。狙うのは相手の込めた力を利用したカウンター。先ほどと同じように腰を落として、体を捻り、腕を後ろに引き絞って構えを取る。
 しかし、今度は飛び退くのではなく、前へと斬り抜ける。構えは同じでも全く逆の動き。先ほどの体の感覚は捨て去らなくてはならない。

 時間の流れる速さが変わったわけではないのに、ゆっくり感じる。近づいてくるクラウスとの間合いを見ながら、慎重にタイミングを計る―――狙うのは刹那。
 力はいらない。相手の力を最大限に利用するのに必要なのは、衝突しあう力ではなく、鋭さ。ただ、一撃にかける技術。それは訓練で磨き上げてきた自分の剣術、実践で培ってきた経験。そう、今この一撃に込めるものは、言うなれば―――剣術への誇り<ソード・プライド>。

  完璧なタイミングで、足に力を込めて前へと踏み込む。突進してきたクラウスをすり抜けるようにお互いの体が交差して、一閃、赤い光が発したように見えた。

 「グァァァ!」

 クラウスは苦痛の叫び声をあげながら、突進してきた勢いのまま頭から地面に衝突すると地面を滑っていく。少し先にあった折れていた柱に激突すると、体を半回転させて頭をこちらに向けて止まった。私が斬り抜けた左脇の鎧部分が鋭利に裂け、血が滴り落ちている。
 しかし、それでもまだ戦う力は残っているらしく、顔を上げてこちらをにらみつけると、ゆっくりと起き上がりだした。

 「流石にタフですね―――でも、これでおしまいです」

 私は構えを解きながら、クラウスに告げる。クラウスは怪訝そうな目をこちらに向けていたが、すぐに私の言葉の意味を理解したようだった。私の横をすいなが駆け抜けていく。

 「やあああああっっっ!!!」

 すいなは気合を込めて叫びながら、クラウスの少し手前で軽く跳躍すると、最上段に振り上げた鎌を力の限りにクラウスへと振り下ろす。確実に鎧の隙間を切り裂き、起き上がろうとしていたクラウスを体ごと地面へと叩きつけた。

 すいなは動かなくなったクラウスを見ると、こちらに振り向いてガッツポーズをした。私はそれにハイタッチで答えようと右手を上げると、それを見たすいなが左手を上げて嬉しそうに駆け寄ってくる。
 しかし、その後ろでゆっくりと再びクラウスが動き出した。持っていた杖を立てるように、動かそうとしている。最後の力で魔術を使おうとしているようだった。

 私のクラウスへの視線に気づいたのか、すいなは振り返らずに言った。

 「りーさんが、さっきおしまいっていったでしょ?」

 よく見ると、クラウスの頭の上に白い骸骨が浮かび上がっている。

 「だから―――おしまい」

挿絵4


 すいなはハイタッチのためにあげていた左手でパチンと指を鳴らした。すると、骸骨が炸裂すると同時に一度大きくクラウスの体が跳ねる。そして、今度こそ動かなくなった。

 「お見事です」

 私はにっこり笑って、すいなとハイタッチを交わす。ぱんっと小気味良い音が建物に響き渡った。

―――

 心地よい風が頬をなでていく。傾き始めた太陽の柔らかな夕焼けが、世界を優しく包んでいた。
 あの後、必要な材料をクラウスから集め、来た道を戻って迎えの船に乗った。一度通った道だからか、それほどトロールに遭遇することもなくすんなりと戻ることができたのは、クラウスとの戦闘で疲れた体には嬉しいことだった。

 私は船員たちに一通り挨拶と感謝を伝えてから、船の中ほどに座っていたすいなの隣に腰を下ろした。すいなは船に戻ってから、ずっとクラウスから手に入れた材料を何度も何度も確認していた。

 『黒曜石の杖、クラウスの骸骨飾り、クラウスの鎧の欠片』―――呪文のように何度も繰り返し呟いてから数を確認し、にやっと笑顔を浮かべる。傍から見ると少し怖い気もするが、そこは言わないでそっと邪魔をしないように優しく視線を向ける。
 何度か繰り返した後、ようやく隣に座った私に気づくと、その作業をやめてこちらに顔を向けた。

 「今日はありがとうございました!」

 頭を深く下げながら、大きな声でお礼を言う。

 「いえいえ。ちゃんと手に入って良かったですね」

 私は頭を上げるように促しながら、大事そうに目の前に広げて何度も数えている戦利品を見る。その言葉に、満面の笑みを浮かべながら「はい!」と力強く頷く。

 「これで作れますね。できたら、着て見せてくれますか?」

 「もちろんです!一番にお見せしますね!」

 もう完成して着ているところを想像しているのか、嬉しそうに目を輝かせ、ちょっとした動きにもうきうきとした感じが伝わってくる。

 「もう一回だけ………!」

 そういって、何度目かになる戦利品の確認をしようとしたところで、大きくふわっと欠伸をした。それでも、また一つずつ手に取りながら数え始める。私はすいなから視線を外して、地平線へと沈み始めた太陽へと目を向けた。

 「流石に疲れましたね。今日はちゃんと休んでくださいね」

 隣でこくりと頷いたのを感じる。それから船に乗ってからずっと考えていたことを言葉にするか少し迷ったが、今伝えておこうと思い、口を開く。

 「今日のお昼の質問なんですが………」

 言いながら横を向くと、こてんと私の右肩にすいなの頭が乗った。すぅすぅと穏やかな寝息を立てている。かすかに笑みを浮かべた、満足そうな寝顔だった。その寝顔を見ながら、自分が考えて行き着いた答えが間違っていないことを確信する。

 私は微笑みながら一息吐くと、すいなの頭に軽く手を置いた。

 「………おやすみなさい」

 そういって、私は再びぼんやりと太陽を眺めた。その温かな光に、私もいつしかうとうとし始め、眠りについた。

―――

 鳥のさえずりが耳をくすぐる。朝の訪れはさえずりだけではなく、昨日も感じた爽やかな空気にもしっかりと感じることができる。
 結局、昨日はコレンにつくと宿屋に向かい、すぐに眠ってしまった。早く寝たおかげで目覚めも早かったが、隣に寝ていたはずのすいなの姿はすでになかった。

 窓を開けて空気の入れ替えを行い、剣の手入れを始めたところに、どたどたと走る音が響いてきた。木造の宿屋の床は、人が来ることを勝手に知らせてくれる。扉をばたんと開けて、すいなが勢いよく飛び込んできた。

 「りーさん、ちょっと部屋から出ててください!」

 開口一番そういうと、お構いなしに私の手から剣を奪って勝手に片付けて、背中をぐいぐいと押して部屋から追い出した。私は仕方なく一階の食堂でパンだけもらうと、昨日と同じようにすぐ外のベンチに腰掛けた。
 そして、また同じように自然と集まってきた犬や鳥たちに千切ってパンを投げる。犬は上手に落ちる前に口でキャッチすると、嬉しそうに尻尾を振って次を待っている。
 もう一欠片大きめのパンを投げてから、残りは細かく崩して鳥たちの目の前に落とした。鳥たちはそれに群がると素早くついばみだした。

 「お待たせしました!」

 その声に振り向くと、そこには早速作った服を着たすいなが立ってポーズを決めていた。ストライプ布地のワンピースに入れられたスリットから覗かせるすらっとした足が、一際目を引いた。

 「似合いますね。かわいいですよ」

 私は素直な感想を述べると、すいなはあふれんばかりの笑顔を浮かべた。

 「ですよね!特にこのスカートのスリット!そして、金属の硬さの中にもある、この布地の柔らかさ!それにこのショートブーツがですね………」

 鼻息も荒く、矢継ぎ早に服の良さを語りだす。この状態になったら、一通り満足するまで話をしない限り収拾がつかないのはわかっているので、軽い気持ちで聞き流していく。
 正直、私にはそういった可愛さへのこだわりはよくわからないため、すいなが着ているのを眺めるぐらいがちょうどいいと思っている。

 嬉しそうに語るその笑顔を見ながら、昨日言えなかった事を思い返す。どうして、すいなに付き合っているのか―――その問いに対する答え。

 考えてみたものの、それほど難しい答えではなかった。ただ単純に、私はすいなの笑顔が好きなのだ。だから、それを守りたいとも思うし、傍で見ていたいとも思う。私にとって、すいなの笑顔がある、“ここにいること”が好きなのだ。

 「………で、極めつけはこれです!」

 そういいながら、くるっと回ってみせる。大きく開いた服から覗く、白い背中が見えた。

 「セクシーですね」

 すいなはその言葉にぐっと指を立てて、誇らしげに胸を張った。

 それで満足したのだろう。服の演説を終えると少し乱れていた呼吸を整えながら、服のポケットに手を入れて何やらごそごそと探し始めた。
 そして、探していたものを見つけると、おずおずとこちらに向けて差し出す。差し出されたのは、箇条書きされたものにいくつかチェックの入れられた、見たことのある一枚の紙だった。

 「あの、これなんですが………」

 きっと、昨日タイミングを逃した私には恥ずかしくて、今、面と向かってあの質問の答えを伝えることはできないだろう。すいな自身も特に気にしている様子も見られない―――もしかしたら、昨日の疲れもあって、聞いたことすら忘れてしまっているのかもしれない。
 でも、それはそれですいならしいとも思うし、改めて聞かれるまでは答えなくてもいいかなと思う。だから、私は差し出された紙を受け取って、いつもどおりに微笑んでこう答える。


挿絵5修正



 「いいですよ、行きましょうか」

―――Fin―――





スポンサーサイト

Categorie【梨衣小説】  トラックバック(0) コメント(12) TOP

Next |  Back
後編アップお疲れ様です^^
先日りーさんが「週末にはアップするかも」と仰ってたので、帰宅後チェックしたらアップ済み!!
一気読みさせて頂きました♪

戦闘シーン、正に白熱!!
バックラッシュ!!ソードプライド!!クロスストライク!!
厨二と言われようがカッコイイ!!!
挟み込んでの立ち回りや、クラウスの攻撃描写、緊迫感が伝わってきました。
そしてトドメのデスレーベル!!!
指パッチンでのフィニッシュは全鎌イヴィのロマンですw
うちも剣ベラと鎌イヴィ居るので、情景が手に取るように浮かびましたわ。


戦闘から戻る際とか、船で移動の情景とか、こーゆー実際のプレイでは見れないところの設定って、裏話っぽくて読んでて面白いんですよね~^^


ただ見ていたいと思う笑顔。ただ守りたいと思える笑顔。そこいるだけで幸せだと思える関係。
いいですよね~。・・・やっぱり愛ですよね~~~///w

挿絵、1枚目の指パッチン超カッコイイ!!!
武器のフェードアウトは正解ですね♪すごくいい感じに纏まってます^^
2枚目のりーさん、カラーに感動した!!てか一目でスチームヒロインってわかるし!!
乳!!腰!!太もも!!!ww
なにより、りーさんの優しい表情♪
文章と絵のコラボ、素晴らしいです^^


お二人ともお疲れ様でした。
小説の話しを聞いたとき、正直ここまで本格的とは思わず・・・ええ、舐めてました;;超面白かったです!!
次回作も読みたいな~♪
また読める、観れる機会を、お二人のプレッシャーにならない程度に心待ちにしてます^^
でも、まじで次も読みたいです!!w
(長文失礼しました^^;)

夜天王はやて:2014/09/22(月) 02:00 | URL | [編集]

まず始めに、私は普段小説を読みません。
そして、文才も画才も無いため、
評価・批評は不得手です。








楽しませていただきました~!
こんな風に世界観を表現できるなんて私には出来ないだろうな~。

文章力だけでも私の中にイメージを創り上げるだけの
極め細やかな風景描写が出来ているにも関わらず、

挿絵によってそのイメージはより鮮明になりました。

お二人の個々の才能と
才能の相乗効果にカンパイです゚+。(o'д'ノノ゙☆パチパチパチ。+゚


個人的に好きな場面は

昨日も感じた爽やかな朝に、いつもどおり微笑む梨衣さん

その場面の文面と挿絵に
お二人の中に流れてきた時間と
これからも続く良縁を確信した次第です


今後も影ながら応援しますので、がんば・・・モトイ

楽しんでくださいねヽ(´ー`)ノ

           陳腐なグリーンダヨーより

おとんちゃん(グリーンダヨー):2014/09/22(月) 02:11 | URL | [編集]

前編後編ともに読ませていただきました。

最初さらっと全体みるとすごい量に思えたんですが読んでるうちに引き込まれてあっさり全部読んでしまいました。

いろんなところが事細かく書いてあったためその場面が自然と伝わってきて非常に読みやすく楽しませてもらいました。


戦闘シーンにおいても細かい描写で鳥肌が立ちましたよ。
お二方の連携、信頼、臨場感がとても伝わってきました。

挿絵のほうもとても素敵です。最後のりーさんの挿絵が何より素晴らしいです。

続きがあるのであれば是非読みたいですので密かに期待をしてますね。

お二方お疲れ様でした。とても楽しませてもらいありがとうございました。

ねぴあ嬢:2014/09/22(月) 02:52 | URL | [編集]

やっと…読めた!
楽しみすぎて一日中悶々としてました。

細かい描写の戦闘シーン!!
自分が戦ってるときのように
ドキドキハラハラして
読んでるだけでとても楽しかったです!

すいなさんが擦り傷で済んでるということは
わたしのイヴィちゃんは
全身擦りむいて足とか複雑骨折してそうだなあ
なんて想像をしてしまい、
もっと上手く立ち回ろうって思えました(笑)

すいなさんの
「りーさんがおしまいって言ったから
おしまい。パッチン」が
かっこよすぎて!かっこよすぎて!
電車で叫びそうになりました!あぶない。

挿絵も素敵すぎますー!
最後のカラーりーさんには
ドキドキしてしまいました…(*´∀`)

思わず手を取りたくなりますね…っ
そのまま拉致りたくなる美しさ…っ
眩しすぎる!!

お二人とも本当にお疲れ様でした!
この小説を読んで
さらに英雄伝が好きになりました(*^^*)
ありがとうございます( ゚∀゚)!

きらみ:2014/09/22(月) 19:05 | URL | [編集]

はやてさん

お帰りなさい!お仕事お疲れ様です!^^

私も初めはどんな小説があがってくるんだろうと思っていたんですが、
実際受け取ったときに、
あまりの本格的な描写に手が震えました。


普段まったく描かないシチュエーションや構図だったので、
悪戦苦闘でした…!

普段小説を読まないので、どういった部分に挿絵が入るのかがまったく判らず、
りーさんに判断を仰いだり、
最後はカラーがいいんじゃないか、とか打ち合わせしたり、すごく楽しかったですw

しかし最後のりーさんは腰の装備がよくわからずに、
太もものアミアミと絶対領域の足当て?をはしょりました。
普段からもっとSSとっておけばよかったと後悔です!
資料、大事!

私はただひたすら画力を向上させるのみです!
りーさんにまた案がぽっと浮かんだら是非!!

すいな ゆめる(suina-yumeru):2014/09/22(月) 22:42 | URL | [編集]

グリーンダヨー!さま

先日は初☆ギブネンお疲れ様でした!

まだまだ勉強中ですが、少しでも雰囲気をお伝えすることが出来て何よりです!
昔から梨衣さんにはお世話になりっぱなしでして…。
最後の1枚は、
感謝の気持ちだったり、私の目にはこう映っているのよ!的な脳内イメージを搾り出しました…!

しかし、小説内のわたしがかっこよすぎてこまります!
現実はもっと残念です…!

ぐりーんさん、こんな私(たち)ですがこれからも仲良くしてやってください!
また良いふんどし見せてくださいね!

ありがとうございました!

すいな ゆめる(suina-yumeru):2014/09/23(火) 01:13 | URL | [編集]

ねぴあ嬢さん

最後の挿絵は今出来るありったけをつぎ込んだので、そうして褒めて頂けて本当に本当に
めちゃくちゃ嬉しいです!!
ありがとうございます!

りーさんがまた何か書くときには
私も今以上をお届けしたいと思います!

すいな ゆめる(suina-yumeru):2014/09/23(火) 01:17 | URL | [編集]

きらみさんへ

私も指パッチンの所はホアアアアアアアってなったよーー!
普段あんなにかっこよくねぇし!
ほぼ転がってるだけなのに…!

こんな私にも見せ場をつくってくれるなんて…
やさしりーさん!

ベラいじったこと無いからわからないこといっぱいだけど、
ベラやってる人から見たらきっともっとムネアツなんだろうな~!


きらみさん、今回…ほんとにほんとにいろいろありがとー!!!

すいな ゆめる(suina-yumeru):2014/09/23(火) 01:22 | URL | [編集]

コメントしてくださった皆様へ

合作?という事なので、イラストに対してのコメント返信をさせて貰いました!

小説に関してはりーさんが返信しますので、もう少々お待ちください…!


りーさんの書いた小説が、沢山の人に読んでもらえて、
こうやって暖かいコメントのこしてくださって、
なんかもうほんと自分のことのようにうれしいです!!!

うるうるしちゃいますよほんとにもー!!

イラストしんどおおおおおおおおおいとか言いながらも
描ききれたのは皆さんの暖かい言葉のおかげです。

こんな素敵な皆さんとめぐり合わせてくれたマビノギ英雄伝に心から感謝です!

本当に、ありがとうございました。

すいな ゆめる(suina-yumeru):2014/09/23(火) 01:36 | URL | [編集]

遅ればせながら、楽しかったですー!

今まで、スマホで読んでいたのですが、今日パソコンで読み直してイラストの(*´▽`*)さに、おほーってなりました!

コンビネーションのシーンがとりわけかっこ良くてお気に入りです!
これだけの長文を書けるリーさんってもしかしてプロ!?

余談ですが、最初読んだ時「すいなさんは左に!」の後
「インド人を右に!」っていう謎の一文(有名な誤植)を空目してしまって(つд⊂)ゴシゴシしてましたw

すっごく素晴らしい小説でした!
有難う御座いました!

でも、一つだけ言いたいことがあります…!
続編は、りーさんとゆめるさんの装備破損のシーンを是非…!

悲涙:2014/09/23(火) 18:21 | URL | [編集]

>はやてさん

戦闘シーンを書くのは好きです。
ただ、動きが分からなくなってくると自分の体を実際動かしてみたりしてみるので、変な疲れがたまって困ることがあります。
クライマックスは厨二っぽい方がかっこよくて盛り上がる気がして、いつもこうなります。
やっぱり後悔はしてません。
ベラのスキル、イヴィのフィニッシュ、一番力を入れて書いたところだったので、気に入っていただけてよかったです。

実際に見えない部分って自分で設定できて楽な反面、世界観にも上手く溶け込むように書こうとしないとで、結構難しくて苦戦したところでしたが、楽しんでいただけて嬉しいです。

次の話は今のところ考えてないですが、機会があれば書きたいと思います。
最後まで読んでいただき、その上感想もいただき、ありがとうございました。


>おとんちゃんさん

読んでいただき、ありがとうございました。
楽しんでいただけたなら、嬉しいです。

読みやすさ、伝わりやすさには極力気をつけているつもりですので、しっかりと情景が伝わってよかったです。

この最後は自分でもお気に入りなので、同じように気に入っていただけて嬉しいです。
もう少しぼかす終わり方も考えたのですが、これでよかったと思っています。

また、小説を載せる機会がありましたら、ゲーム内共々よろしくお願いします。
感想ありがとうございました。


>ねぴあ嬢さん

書き上げて結構長いかなと自分でも思いましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。

はやてさんもそうですが、ベラをやっている方に戦闘シーンを褒めていただけると、とても嬉しいです。
動きが分かっている分、違っていると違和感が出てしまいそうなので。

いろんな方に分かりやすかったと言っていただけているので、少しは伝わりやすさには自信を持ちたいなと思います。

続きはあるかわかりませんが、楽しみにしていただける方もいるのでまた思いついたら書こうと思います。
あまり期待せずにお待ちいただけたら嬉しいです。

感想ありがとうございました。


>きらみさん

戦闘シーン、楽しんでいただけてよかったです。
どうも戦闘シーンは少し説明くさくなる癖があるので、臨場感が伝わったのなら本当に嬉しいです。

立ち回りも文章にすると位置関係が色々ごちゃごちゃしてしまうので、そこも上手く伝わったなら良かったです。

かっこいいすいなさんを気に入っていただけてよかったです。
イヴィのスキルはよくわからないので、最後だけになってしまい、イヴィメインだとちょっと物足りない感がなかったかちょっと心配です。

最後まで読んで感想もいただき、ありがとうございました。


>悲涙さん

プロの方はもっともっと上手で足元にも及びませんが、素人なりにも読んだ方に楽しんでいただける文章にはなっているようで嬉しいです。
コンビネーションは結構上手くかけたかなと自分でも満足しているので、気に入っていただけて嬉しいです。

インド人を右に!を検索してみたら、すごい誤植が色々出てきました。
確かに、あれらが脳裏に浮かんだら目も疑いたくなります。

お褒めいただき、ありがとうございます。
読んでいただき、こちらこそありがとうございました。

装備破壊シーンは書けなくもなさそうですが、きっと悲涙さんが求めていらっしゃるような艶やかさは書けないと思うので、もし書いた時はすいなさんの挿絵に期待してください。


>感想を下さった皆様へ

返信、読みづらくて申し訳ありません。

楽しみにしていただいている方もいらっしゃるので、もし話が上手くまとまって書けそうでしたらまた書こうと思いますので、そのときはよろしくお願いします。

拙い文章でしたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。
感想もいただき、その中でも楽しんでいただいた方がいらっしゃって、とても嬉しいです。
本当にありがとうございました。

ゲーム内共々、これからもよろしくお願いします。

梨衣:2014/09/24(水) 01:17 | URL | [編集]

ひるいさん

さすが悲涙さん…。


とりあえず私が描くと全年齢版ではなくなります。
やんわり描くとキューティーハニーみたいになります。

で、梨衣さんはどこまでのポロリを書いてくださるんですかね?!

すいな ゆめる(suina-yumeru):2014/09/24(水) 20:52 | URL | [編集]

Post your Comment











 管理者にだけ表示を許可
この記事のトラックバックURL

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。